田中角栄 封じられた資源戦略
最初にこの本を手にしたとき、題名がものものしいため一歩後ずさりしてしまったのですが、友人が勧めるので読んでみたところ、惹きこまれるように一気に読み終えてしまいました。田中角栄というと、私はロッキード事件での悪い印象しかなかったのですが、この本における田中角栄は、資源を持たざる国の首相として資源の獲得外交にリーダーシップを発揮する、輝かしい政治家です。最近は内向きになりがちな政治家ばかり見ているせいか、この本における田中角栄の強烈なリーダーシップが眩しく思えて仕方なかったのですが、著者も以下のように書いています。
「田中 角栄がもし生きていたら、エネルギー供給源を多角化し、「持たざる国」日本の危機を回避するためにグリーン・ニューディールに突っ走った、と想像する自由は残しておこう。」
本書は田中角栄の生き様だけでなく、世界、特に米国のエネルギー保障戦略と歴史を理解する上でも極めて有効な本だと思います。米国はこれから石油やウランだけでなく、自然エネルギーについても覇権を握る動きを本格化させると思うのですが、本書を読んだ後であれば、そのような米国のエネルギー保障にまつわる動きについてまた違った面からの理解を加えられるのではないかと感じます。
登場する政治家に福田、鳩山といった昨今の首相の親の世代が含まれており、名前に親しみがあるのも手伝って30代半ばの私でも楽しく読むことができました。若い人にもお勧めの好著です。
田中角栄研究―全記録 (上) (講談社文庫)
田中角栄の人脈、関連会社、金の流れを徹底的に調査して書き上げた「田中角栄研究-その金脈と人脈」他、これに続けて著者が雑誌に発表したものと著者自身による解説が収められている。
立花隆は取材チームの報告をもとに隠された事実を推論し、更なる調査の指示を出していく。20名のチームとはいえ一か月でここまで調査したということにまず驚嘆である。
各記事では会社の登記などの公の事実と関係者からの聞き取りといった情報に加え、著者の大胆な推論が展開されている。例えば越山会へ一回だけ献金したことのある企業をリストアップして、同時期にその業界が有利になる(または不利を免れる)ような政策決定がなされた事実を合わせ、関係者にあたるうちに、田中の集金手法をあぶりだす。それは見返りを期待してなされる自発的なものだけではなく、業界に不利な政策を打ち上げ要求する恐喝型政治献金であった。
金権政治のメカニズムの一端を教えてくれる貴重な書物である。
これを書くことで、身の危険や嫌がらせ、名誉毀損で訴えられることも著者は当然考えた。そのときの腹の括り方もすごい。
「暴力沙汰というのは、要するに、肉体的苦痛を我慢すればすむことだし、(中略)ほかにいくらも食う道はあると思っていたから、さして心配はしなかった。あと名誉棄損の場合は先に述べたようにせいぜい三年の監獄入りですむことなのだ。」
年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)
年金問題がわかる本。将来の糧となる年金がすでに破綻していることがわかります。
読んでぞっとした。
18問のQA方式で、内容が順を追ってやさしいレベルから難しいにレベルアップする構成。
年金特有の小難しいことは一切なく、わかりやすく、読みやすい。
筆者は政治家、役人の責任を問題にする。それは確かにそうだが、
選んだ我々、まかせっきりの我々国民にも問題ありだ。
テレビや新聞をぼーっと眺めて丸呑みしてきてたツケがでたということ。
この本を読んで、無知を知に変えなくては、
厚生労働省と政治家にわれわれが積み立てた年金はこれからも食い物にされるだろう。
ニホン国民必読の書といえる。
日中国交正常化 - 田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦 (中公新書)
田中首相・大平外相のコンビが外務官僚と一丸となって、日中国交正常化を成し遂げる経過をドキュメンタリータッチに紹介する。前半では、下交渉や台湾への断交通告を、後半で田中・大平が訪中し交渉した6日間を書いている。日中の一次史料はもちろん、下交渉を主導した橋本中国課長、共同声明文を起案した栗山条約課長など、枢要な人物に直接インタビューし、交渉現場の空気をそのままに描く。その筆致はまさにドラマチックの一言だ。
中盤のヤマは台湾との「円満断交」。断交なんてしたら普通は戦争状態。猛反対されるのはやむなしだが、民間レベルは今まで通りにしたい。親台派の椎名悦三郎を送り、当時病床の蒋介石を代行し、実権を握っていた蒋経国と会談する。互いの発言をウソと知りつつしらばっくれ、「断交の話を伝達した」日本と「断固反対と答えた」台湾、互いの顔を立てて「会談は成立した」ことにする過程が実に読ませる。椎名特使随行議員団の末席にハマコーがいるのだが、ホテルへ車で向かう途中、デモ隊にフロントガラスを叩き割られる。だが、あの短気な男・ハマコーが「我慢しよう」と呼びかける姿が何ともいい。そして、ハイライトである訪中交渉では、中国の絶対条件「台湾は中国領であると認めよ」、「日華条約は無効とせよ」という主張に対し、日本は、前者については栗山課長の腹案「日本は台湾独立を認めないが、中国領の主張も受け入れない(「尊重する」)」、後者については、橋本課長の提言「不自然な状態」を採用して決着させた。
主眼は題名の通り日中国交正常化だ。しかし著者は、真の政治主導のあり方は何かを、戦後外交最大の難関だった日中正常化交渉から見出そうとしている。なぜ今政治主導か。今の子供のサッカーみたいな首相とその与党を見れば明らかだ。消費増税、TPP、最近では、エコタウン、1000万軒太陽光発電…大プロジェクトをぶち上げては何もしない。あるいは、消防に「早く放水しないと処分する」と激高するほど自分たちで決めないと気が済まなかった割に、与党内すらまとめられない。事故収束も、避難者の生活再建もまだ道筋が見えないのに、「自然エネルギーへの30年来の思い」とやらをブログに延々と書き綴る。これほど「政治主導」に泣かされている時代はない。
田中は「正常化すべき」という橋本課長の助言で正常化を決断し、交渉の条件設定まで外務官僚に任せる。その一方で、官僚は首相、外相と密に連携を取り、逐一報告する。交渉が暗礁に乗りかかっても田中は「大卒が何とか考えろ」と冗談を飛ばし、場を和ませる。帰国してからの両院議員総会は右派議員の激しい怒号を田中・大平コンビで浴びまくる。本書の巻末で、田中のリーダーシップの要素として、企画構想力、決断力、実行力、包容力を、大平のリーダーシップについては綿密な準備と調整力を、そして両者とも人を使いこなす才があったと、直接仕えた官僚たちは見る。豪放な田中と緻密な大平が互いを補い、最終的な責めは自分たちが負う覚悟なしに、正常化はあり得なかった。そして、著者も、田中、毛とも絶大な権力を持っていたから、互いの国内で反対の多かった国交正常化を実現できたという。そして前首相、現首相ともおそらくいずれの力もない。「角さんがいれば」とは思わないが、せめて、震災の失態を忘れさせるための派手な「新政策」をぶち上げて目をくらませるだけの「政治主導」に、与党がおさらばして、被災者の生活再建を地道に支えてくれれば……と本書を読んで思う。
300を超える脚注を従え、本書はあたかもその場に席を同じくするかのように、状況説明、舞台の情景描写、登場人物の会話や時に心情まで立ち入って解説する。厳密な史料研究と聞き取り調査に基づきつつも、ドキュメンタリータッチの長編ドラマを見ているかのようだ。そして、主役の田中・大平はもちろん、親台派にもかかわらず台湾へ詫びに行く、ちょい役ハマコーまでかっこいい。また、外交史に「政治主導のあり方」という、今まさに問われている国内の政治課題を、テーマとして重ね合わせる手法。新書としての完成度は非常に高い。「政治主導とは何か」、考えたい人には読むことを勧める。
熱情―田中角栄をとりこにした芸者
まだ昭和だった頃、目白通りの田中御殿のまわりにはいつも記者たちがいた。平成になると、御殿の前にはもう誰もいなくなった。
時折、神楽坂を歩く事がある。昭和のあの頃からすれば、風情はなくなってきた。それでも三味線の音色は、今も路地裏から聞こえてくる。
今ほど豊かではなかったが、まだ世の中にも、人たちにも暖かさが残っていた時代。昭和には、戦争もあったが、その後の活気も熱気もあった。
そんな時代を駆け抜けた一人の政治家をめぐる、一人の女性の淡々とした語り。読後、昭和は歴史になりつつあることを感じた。